繋がり。***14







─自宅 ロスの部屋─



「アルバさん、今夜どうですか?」


部屋で寛ぎゴロゴロと寝転んで漫画を読んでいたアルバさんは漫画から手を離し、上半身を起こしてあぐらをかくと頬を赤く染めた。その誘いが何を意味しているのか理解したのだろう。今夜お父様とお母様は親戚の結婚式で家を空けている。帰ってくるのは明日だ。つまり今夜は2人きり。ということは、だ。この気を逃すわけにはいかない。
「いいですよね?」
もう一度、再確認する。
「う、うん…」
アルバさんは視線を逸らしたまま小さく返事をした。
「流石にオレも限界なんですよ」
「あーえっと…う、うん、わか、るよ」
「キスするだけで真っ赤になって精一杯なアルバさんのくせに?」
オレはアルバさんの顎を掴んで強引に目線を合わさせた。
「さ、最近は慣れたよ!ボク風呂入ってくる!」
アルバさんに手首を掴まれてぐいっと離されるとバタバタと慌しく部屋を出て行ってしまった。逃げたな。オレは独り残された部屋で深く溜息を吐き出した。

『いいよ…』

あの日の夜、アルバさんが囁いた声が忘れられない。 勢いに任せて自分で押し倒したくせに、結局事に及ぶ勇気がなかった。
「情けないな…」
今だって緊張している。心臓の音がやけに早く耳に届いて聞こえてくる。オレだって初めてなんだ。…ちゃんとリードしてやれるのか、オレは。欲に負けて強引に事に及んで傷つけてしまわないか、と同時に早くオレのものにしてしまいたいと焦りも生まれる。オレの手の中で泣かせてやると思うと背筋がゾクゾクして興奮する。始めからアルバさん相手に脱童貞するつもりでいた。というかあの人以外の相手に勃つ気がしない。経験を作ろうと思えば作れた。身体だけの関係を求めて女からの誘いは何度かあったが乗りはしなかった。

今日は優しくしてやろう。憎たらしい発言も控えて殴るも蹴るもなしだ。と思ったが、無理だろうなと自己嫌悪する。今更素直になれと言う方が難しい。自分の性格が捻くれているのは百も承知だ。なのにあの人はこんなオレを簡単に受け入れてしまう。寛容すぎる。お人好しも度が過ぎればただの馬鹿だ。そもそも普通ありえないだろう。人間あそこまで罵倒されたりもすれば距離を置こうとする。記憶だって忘れているのに…なんであの人はオレに好意を持つんだ。
自分で言うのもなんだがオレはモテる方だ。女にも…稀に男にも。だからだいたいその手の視線の理由はわかる。あの人も、同じ目をして時折オレを見ていた。それでもオレに気付かれないように一生懸命友達の振りをする。ああ、そうだ。そのままでいい。そのまま友達の振りをしていればいいとさえ思った。あの忌まわしい記憶を忘れたまま、元気に過ごしているならそれでいいと。だから始めは慣れ合うつもりなんてなかった。そっけない態度をして関わらなければいい。しかし運悪く転校初日に同じクラスと知った時は本気であのマスターを殴り飛ばしてやろうかと思った。おまけに席はあの人の後ろとかなんの罰ゲームだ。

一目でわかった。あの人は十年前の面影をしっかりと残してオレを凝視していた。不安だった。怖かった。もし記憶を思い出していたら。そう思うだけでひどく緊張した。けれど。

『初めまして!ボクはアルバ!よろしくな!』

席に着いたオレに、アルバさんは元気よくそう言った。"初めまして"と。オレは悟った。ああ、そうか。思い出していないんだと。オレの事すら覚えていないんだと。記憶がないのなら、思い出していないのならこのままでいい。そう思っていたのに。こんな関係になる日が来るなど思ってもみなかったのは、オレの方だ。



***


「お、おじゃまします」
しばらくして部屋に戻ってきたアルバさんの声は裏返りガチガチに緊張しているのが手に取るようにわかって、その姿に思わず吹き出してしまった。「なんで笑ったんだよ!?」と安定のツッコミが入れられる。いい意味でこっちの緊張を解してくれた。アルバさんは風呂上りでタンクトップに黒のスウェットと、ラフな格好をしていた。日焼けをしてしまったのだろう、普段半袖から出ている二の腕だけが少し小麦色だ。
「今からそんなに緊張していたら後が持ちませんよ?」
「だ、大丈夫だよ!!」
何が大丈夫なのか。アルバさんがオレの隣に来て腰を下ろすとその視線が目の前の敷いてある布団に向けられた。アルバさんが風呂に入っている間に布団の上にはバスタオルを敷いておいたし周りにはティッシュ箱や小さなボトルに入ったローションのようなもやらゴムやら色々と置いてある。それらをざっと見てアルバさんの頬がかあと赤くなった。
「な、なんか、いろいろあるんだね…」
「いつでもそうなっていいように準備はしていましたから」
「き、気合入りすぎだよ!」
その声は明らかに動揺と焦りが含まれていた。
「別に普通の事だと思いますけど」
「ど、どこでこんなの買ってきたの?」
「ネット通販という便利なものがあるじゃないですか」
「そ、そっか…」
微妙な沈黙が数秒流れる。
「ね、ねえ男同士ってどうやるの?」
「一応知識はありますが、何せオレも初めての経験ですからね。色々と調べたりしましたけど」
するとアルバさんは黙ったままじ、っとオレを見つめてきた。
「何です?」
「…あのさ、ロスってその、経験あるの?………女と」
オレは咄嗟に視線を逸らした。逸らした後で後悔した。やましいことなど何もないというのに。隠しておくわけでもないが童貞である事に恥じらいが生まれたのだ。
「ああ!何その微妙な顔!!あるんだな!?」
「うるさい」
「うう…あるんだ…そうなんだ、やだ、なんかすごい、地味にショックなんだけど…」
本気でショックを受けたのか声は震えているしその表情は傷ついていますと言わんばかりに悲しげだ。マジでわざとやってんのかこの人は。いや、オレも人の事は言えないがこの人もそんなに器用な人ではない筈だ。
「……ありませんよ」
オレはぼそりと小さく呟いた。
「え?」
「だからオレも貴方が初めてなんです!童貞で悪かったな!!」
思わず手が出そうになったがぐっと堪えた。よし、頑張ったぞオレ。
「逆切れ!?……そ、そっか。お互いに初めて、なんだ…」
「アルバさんは?あるんですか?女とセックスした事」
「な、ないよ!」
「ああ、よかった」
一呼吸おいて、真っ直ぐに見つめる。

「もし経験あるなんて言ったら、嫉妬で狂いそうになる」

途端アルバさんは頬を赤く染めキュッと下唇を噛んでその瞳が大きく揺れた。コンタクトをしていない赤い瞳が妙に綺麗に見えて。その表情が溜まらない。明らかに動揺している。そしてそれを悟られないように隠そうとするんだ。ほら、数回瞬きをして視線を泳がせて気持ちを落ち着かせようとしてる。それが癖なんだって気づいてないんだろうな。教えてやるつもりもないけど。
「─…あ、あのさ、一応確認したいんだけど、ロスはどうしたいの?その、どっちが女の役割するのかなって…」
「はあ?まさかオレに突っ込みたいとか思ってたんですか!?」
自分でもわかる程オレは不愉快な顔をして冷めた目でアルバさんを見た。
「いやだってボクも男だし!どっちがどっちなのかなって気になるだろ普通!」
「冗談じゃないです。オレはアルバさんに突っ込みたいです。ていうかアルバさんで抜いてましたし」
「いやああああああっ!!さらっととんでも発言しないでーー!!」
「何今更純情ぶってんですかあんた。高校生にもなって欲情しない方がおかしいでしょ」
「う、いや…うう…」
アルバさんはもじもじと恥ずかしそうに顔を俯かせた。なんだその反応。今すぐ襲って欲しいのか。
「ていうかぶっちゃけオレの事考えて抜いたりとかしてなかったんですか?」
「そ、それ、は…その…し、した、けど、さ…」
最後の語尾はごにょごにょと聞き取りづらかったが確かに聞こえた。この人がオレの事を考えながら自慰をしていたと知っただけで興奮した。
「だ、だってしょうがないだろ!つい最近まで片思いしてたんだから!!」
「ま、まさか妄想の中でオレに突っ込んでたとか…!」
「そんなリアルな妄想してねえよ!!」
アルバさんははっとした表情をしてまたすぐに顔を赤らめた。
「じゃあどんな妄想しながら一人でやってたんですか?ねえ、アルバさん」
わざと意地の悪い笑い方で問いかけてみる。
「お前ホンット最低!!」
アルバさんはわなわなと震えながら必死に叫んだ。
「はいはいお喋りはここまでですよ」
いつまでもこうしていては埒があかない。オレはアルバさんの肩を押すと布団に押し倒した。
すぐさま彼に跨って見下ろす体制になる。
「あ…」
小さく漏れた声。
「あの夜の続き、しましょうか」
アルバさんの瞳が細くなり、不安げに見つめてくる。そしてぎこちなく微笑えんだ。彼の両腕が伸びて首に回り瞳を閉じる動作を合図に互いに唇を重ねた。角度を変えて何度も触れ合うキスから次第に深いキスへと変わっていく。唇を割ってぬるりと自分の舌を彼の舌と絡める。たどたどしい舌の動きに必死に答えようとしているのがわかる。そういえばディープキスなんてしたことなかったんじゃないか?キスはいつも触れるだけだった。何度か舌を入れようとしたら恥ずかしがって拒まれたし。一度唇を離すと潤んだ瞳が幼い顔をいっそう幼く見せた。時折男らしい行動や発言をするくせに可愛らしい一面を見せる。そのギャップが堪らない。
「下手くそですねえ」
「し、仕方ない…だろ!舌、なんて、初めてなんだから!」
「経験あったらあったで殺しますよ」
「やめて!?まだ死にたくないよ!?」
勢いよくツッコミをしてきたがすぐに拗ねた表情に変わり思わずドキリとしてしまった。顔に出てなければいいが。
「…ロス、…今は、もっとキスしたい」
強請る様に囁かれて、アルバさんから唇を重ねてきた。再び舌を絡ませてオレの舌の動きをまねて絡ませてくる。互いに触れ合う肌に興奮してオレのそこもゆるく勃起していた。服越しに互いの性器と性器が擦れて身じろぐ。右手でタンクトップを上まで捲し上げると乳首が見えた。赤く色づいている。重なる唇を離して今度は首筋にキスを落とす。アルバさんの口から小さく声が漏れた。わざとリップ音を立てて下へと唇を移動していく。そして目の前の乳首を口に含んだ。
「あっ!」
舌先でいじり音を立てて吸い上げる。舌先の感覚が伝わったのかビクリと身体が反応した。咄嗟にオレの両肩を掴んで離してと抗議してくるが無視だ。軽く歯を立てると声はいっそう高く鳴いた。
「ひゃあっ!」
甲高い女みたいな声だ。反対側も愛撫して時折強く引っ張る。
「あっ、んっ…」
「噛まれるの好きなんですか?」
「や、わかんな…でも、変な感じ」
「もっとひどくしてあげましょうか」
「ば、ばかっ!」
「はい、両手上にあげて」
半分脱がしにかかったタンクトップをそのまま脱がす。男にしては細い方だが意外に筋肉もしっかりとついている。右脇腹の傷も妙に浮いて見えた。
「一応筋肉ついてるんですよね、アルバさんのくせに」
「これでも鍛えてるんだよ!てかロスも脱げよ!ボクばっかりぬ、脱がされて!」
「まだ下は履いてるじゃないですか」
喋りながら一度跨っていたアルバさんから離れると彼のスウェットに手にかけて一気に下着ことずり下ろした。
「ぎゃあああああああ!!!!」
アルバさんは悲鳴と共に大慌てで体育座りの格好で両手で両足を抱えてしっかりと閉じられてしまった。
「なんですかその色気のない悲鳴は」
「う、うるさい!!」
アルバさんに言われたから、ではないがオレもバサリと自分の着ていたシャツを脱いでその辺に放り投げた。上半身が露わになる。アルバさんの熱い視線が上から下へと動いてはぼーっとした顔でガン見されていた。あれは惚けているな。分かり易い人だ。続けてアルバさんの目が動き、その視線を追っていくと今度は左腕を見ているようだ。腕の付け根の辺りには傷跡が残っている。年月が経ち薄くなってはいるがぐるりと一周したような、傷跡が。刺されたものではない、まるで腕を縫い合わせたような醜い傷跡だ。
「アルバさん?」
「あ、ああ、ごめん。腕の傷、見たことなかったから…体育とか着替え見たことあるのにさ、気が付かなかったなって」
「結構やばかったみたいですよ。出血多量で死にかけてたらしいですから」
「ええ!?」
口には出さないがアルバさんはむっとして「こいつはなんでいつもこうさらっと重要なことを話すんだ。しかもこの状況で」と
言いたげな顔をしている。
「そんなことより開いて下さいよ」
「え?」
がっちり両腕でガードしているがオレはお構いなしにその腕を掴み離そうとした。
「足開けって言ってんだよ」
「ふええええええ!無理無理無理無理!!」
涙目になり本気で否定されたが無視しよう。もう一度両足を開かせようと試みるが必死に抵抗してくる。なかなか強情だ。
「でなきゃできないでしょうが」
「いや、ちょっと待って!これもの凄く勇気いるよ!?」
「あっれ〜オレの事受け止めてやるって豪語したのどこのどいつでしたっけ」
「こういう意味じゃねえよ!?」
「ほら」
ぐ、と腕を強く握るとようやく観念したのか腕を両足から解いて震えながらゆっくりと両足を自分から開き始めた。 かたかたと身体を震わせて目を強く瞑っているが彼の性器は勃起していた。
「お願いだからガン見しないで…」
恥ずかしかったんだろう。両手で顔を覆ってしまった。耳まで真っ赤だ。
「オレ初めて人のちんこ勃起してるの見ました」
「ボクだって見せたことないよ!!」
まあいい。オレは自分の顔を下へと下へと下げた。
「え、ちょっと待って何する気?」
「わかってるくせに。わざわざ聞くなんていやらしいですね」
「はあ!??」
「口と手、どっちでやって欲しいですか?」
オレはわざとらしくにやりと笑う。
「へ!?」
「まあここまで勃ってるなら手でやらないで口からいっても問題はないか?」
「はあ!??何一人で冷静に判断して…や、や、やだ!まってまってまって!あっ……!」
流石に男のものを口の中へ入れるのに抵抗があるかと思ったが意外といけた。歯を立てないように気を付けながら亀頭部分から裏側の裏筋へと舌を動かす。根本から全体を舐めあがり奥まで加えて性器全体を刺激する。
「やっ…あっ!だめっ…!」
頭を捕まれて髪をぐしゃりと握られ引っ張られる。痛いと一発殴ってやりたい所だがまあ、それ程必死なのだろう。上下するときにすこしひねりをくわえるのも、一層の刺激があるとネットで読んだまま知識の通りに行動していく。
「ろ、ろす、はなして、や、やばい…あっやだ!!まだイきたくない!離せ馬鹿!!」
思いっきり髪をひっぱられた痛みで衝動的に顔を離した。文句を言ってやろうかと顔を上げたが不満そうな顔で睨まれた。頬を紅潮させ肩で息をしているが明らかにその瞳には怒りが含まれている。
「何ですかその不満そうな顔」
「…嘘吐き」
ぼそりと呟かれた。
「はあ?」
「嘘吐き!初めてなんて絶対ウソだろ!!なんでこんな…こんなっ…上手いんだよ!!経験がなきゃこんなのおかしい!!」
「ああ気持ちよかったんですね、初めてにしてはオレも上出来ですね」
「ば、馬鹿!!はっきり言うなー!!!!」
「やきもち妬いたんですか。いもしない相手に」
本当に何でこの人こんなに可愛いんだろう。頬に触れようと右手を伸ばしたが顔を逸らされて拒否られた。
「誤魔化すな浮気者!」
「だから違うって言ってるでしょう。オレはこの十年アルバさん一筋ですよ」
「っ!!」
あ、固まった。わなわなと震えている。可愛い。
「大変です。アルバさん」
「な、なんだよ」
「オレ今アルバさんが可愛いって思ってしまいました」
「真顔で言ってんじゃねーよ!!てか可愛くないから!!可愛いって言うな!!」
涙目で頬を赤くして怒鳴ってもなんの説得力にもならない。
「……本当に、初めて?」
「そうですよ」
「本当に本当?」
「しつこいですね」
殴りますよと続きそうになり口を閉じてぐ、っと堪えた。
「くっそー…なんかすげー悔しい。ボク一人で焦って、てかロスだって下脱げよ!……ボクばっかり気持ちよくなってもしょ、しょうがないだろ!」
「大丈夫ですよ、これでも結構興奮してますし」
アルバさんはオレの返答を無視してがし、っとオレのズボンを掴んだ。ボタンを外されジッパーに手を掛けようとしたところで手が止まった。服越しにでもオレのものが勃起しているのがわかる。躊躇ったようだがそれでもじーっとジッパーを下ろされて勃起していた性器が外にさらされた。そして凝視されること数秒。
「え、つか、え、なんで大きさこんなに違うの?」
自分のそれとはちがう大きさに動揺している。オレは一般男性並みのサイズがどれぐらいかは知らないがでかい方ではないと思う。だがぶっちゃけアルバさんの性器は確かに小ぶりだ。
「アルバさんて小さいですよね」
思いっきり鼻で笑ってやる。
「悪かったなちくしょう!」
予想通りのツッコミだがすぐにサーっと血の気が引いていた。
「そ、そんなの、入るの…?」
頼りない、殆ど涙声だ。
「いくらなんでもいきなり突っ込んだりしませんよ」
本音を言えば今すぐ突っ込んでぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ顔も見てみたいが流石にそこまでして嫌われたくはない。恐怖を植え付けて次に繋げられなくなったらそれはそれで面倒だ。
「ほら、もうちょっとこっち寄って下さい」
ぐい、とアルバさんの腕を引くとぎゅ、っと首に腕が回り抱き着いてきた。入ってはいないがアルバさんがオレの膝の上に乗っている状態だ。ああくそこの体勢はマジでやばい。事を早急に進めたくなる衝動に駆られる。だが焦りは禁物だ。オレは手探りで手元にあったローションを手に取りたっぷりと右手と指を濡らしずぶりとアルバさんの中に一本中指をゆっくりと入れた。
「…ん、くるしっ」
「まだ一本ですよ?」
「で、でも…なんか、変な、感じっ…」
「慣らさないと後で辛いのはアルバさんですよ?」
「う、うう…が、頑張る」
ぎゅう、とアルバさんはオレに回している腕に力を込めた。頑張る、の言葉に思わず苦笑が浮かぶ。ゆっくりと指を動かして性急に突き刺していく。グチュグチュといやらしい水音が耳に届いてかあとアルバさんの顔が赤くなった。中を探る様にある箇所を指でおしあげるとビクリと大きく身体を震わせた。前立腺の辺りか。
「な、なに…?」
自分の身体の変化に自分で驚いているようだ。
「知っていますか?男にも女と同じように快楽を感じる所があるそうですよ」
「や、やだ…そこ、ああ!」
「ここ、気持ちいいんですね」
更に二本目をゆっくりと中に入れて、再びその箇所を指で刺激する。
「ひゃあ…!な、なに、やだ、あ、ああやだ、やめっ…あ、ああ、そこ、いや!いやあ!!」
いやいやと小さく頭を振るが止めるわけがない。指の動きをもっと早く動かして。アルバさんの呼吸が荒くなりボロボロと涙を流した。
「ああっ!ろ、ろす、や、んっ…やめっふあっだめえ!!」
アルバさんの性器は腹に付きそうなほど勃起して先端が濡れているがまだ射精はしていない。イクにいけないのだろう。オレは指を引き抜くと額にキスを落とした。アルバさんは荒い呼吸を整えようと必死で、とろんとした瞳がオレを見ている。もう俺自身、限界だった。近くにあるはずのゴムを手探りで探しては手に取り口に銜えた。
「あ、ま、まって…」
何を思ったのかアルバさんは口に銜えたゴムを取ると投げ捨てた。 つい投げられたゴムを目で追ってしまい、再びアルバさんを見た。
「…ゴム、いらない」 
眉間に皺が寄る。

「ロスの、そのまま欲しい」

ちょっと待てこの野郎。今本気で一瞬イキそうになった。言葉だけだぞおい。
「ろす…」
潤んだ瞳で見上げてくる。早く、と誘っているようにしか見えない。
「後悔すんなよ」
噛みつくようにキスをして布団に押し倒した。背中にアルバさんの腕が回される。唇を離し目が合った所でその先端を押し付けて一気に中に押し込んだ。
「いっ…!!」
目を見開き声にならない叫びをあげるアルバさんを見ながら全身の血が沸騰するような熱い感覚を味わっていた。興奮している。締め付け。熱。アルバさんは強く目を瞑り眉間に皺を寄せて額には玉の汗が滲んでいる。なんだこれ、予想以上に気持ちがいい。正直オレもかなり精一杯でこのまま動いてしまってもいいのか、一度抜いたほうがいいのかと迷いが生じた。だが弱音は吐きたくもないし見せたくもない。
「大丈夫ですか?」
オレは強がって冷静な振りを努めて言った。アルバさんはこくこくと首を小さく縦に振るがとても大丈夫だとは思えない。
「本当に?」
「…う、動いて、いい、よ」
たどたどしく吐き出されたそれに反応しないわけがない。一層膨らんだ。
「ひゃあ!」
アルバさんはじ、っと辛そうな顔をしたままオレを見て。
「…身体は、素直、だよな」
なんて軽口を叩いた。
「まだ話せる余裕あるんですか」
返事は返ってこなかった。荒い息遣いで必死に酸素を吸うように呼吸をしている。
「…は、はやく…」
オレはアルバさんの膝を抱えて上から突き刺すように腰を叩きつけた。
「やあ!あ!あああ!激しっ…あ!あ!あああっ!」
腰の動きはどんどん速く激しくなっていく。がくがくと揺さぶられ癖のある髪が踊る。アルバさんの爪が痛いほど背中に食い込んでくる。布団の上に敷いていたバスタオルもシーツも揉みくちゃになってぐちゃぐちゃだ。とにかく無我夢中だった。余裕なんてあるわけがない。こっちだって何もかもが初めての経験なのだ。
「あ!あ!あ!あ!」
「くっ…」
汗が額を伝う。ぽたりぽたりと落ちて彼の腹に、シーツに落ちていく。
「ろす、ロス、もっと、もっと奥まで!」
驚いて自分の耳を疑った。
「急かすなよ!」
パンッと肉と肉がぶつかる音にグチュグギュと漏れた音。激しい音が部屋中に響いている。
「やああああ!!!いや、あああそれ、や…っあ、や!…ひああ!ろす、…ああ!!」
アルバさんの中がキュッと締まる。
「くっ、あっ凄い、締めつけ、ですよ」
「あっ、すご、中、熱いっ…ああ!あ、や、しお、」
言いかけて、アルバさんは口を閉じた。ボロボロと涙が流れている。
「好きな、呼び方で、いいですよ…」
自分でも驚くほど優しい声だった。両目が見開かれて揺れている瞳がオレを見ている。
「シオン…」
囁かれた名前。自分でも理由がわからない。何故かどうしようもなく泣きたくなって、胸が締めつけられた。汗でぐっしょりとなった膝を抱え直し、腰を動かすとオレのものがグチュッとアルバさんの中に深く奥へと入った。
「ああっ!」
止まっていた動きを再開し、膝を立てて腰の動きを早く、一層激しく突く。
「シオ…!あっや、いきな、ん、ああっああああっあああ!」
「うっくっ…」
歯を食いしばり、出してしまいたい波が襲いかかってくる。
「あ!ああっ!…も、もうげんか…!」
「アルバ」
耳元で名前を囁いてやればビクリと身体が大きく震えた。
「ああっ!あああ!ああああっ!!!」
絶頂を迎えた高い声と同時に自身の波を中に吐き出した。結合部分から自身の性器を伝って白いものが流れてきている。アルバさんも自身の腹に白いものを飛び散らせた。
「はあ…はあ…はあ…はあ…」
全力疾走をした後の様に息が乱れていた。自分の性器がまだ中にありながらもグチュグチュと断続的に精液が出ていた。そんな中オレはじんわりと充足感を感じていた。腰を引きずるりと抜ける感覚に腰が震えた。
「…すみ、ません、中、出しちゃいましたね…」
「はあ…はあ…んっ…すっごい…熱いよ…」
お互いに呼吸を整える。オレはどさりとアルバさんの隣に身体を預けた。狭い一人用の布団で荒い呼吸音。隣を見ればアルバさんの右頬に髪が張り付いている。そっとその髪を指で避けた。アルバさんはだるそうに身体を起こすとオレの上に覆いかぶさるように乗っかってきた。
「重い…?」
声が少し掠れている。
「いいえ」
返ってこの重量感が変に心地いい。アルバさんが甘えるように胸に頬を摺り寄せて抱き着いてくる。
「…えへへ、ぎゅってしちゃった」
「………」
なんだその笑顔の破壊力。えへへじゃないだろう。えへへじゃ。男子高校生が使う言葉じゃない。ただでさえ上に乗っかっているせいで、下半身は素直に反応してしまった。
「わっ…も、もう、なんでそんな、元気な訳?む、無理だからね?流石に二回目とか…」
アルバさんはかあと頬を赤らめた。それが逆に誘惑しているという自覚はないんだろうな。
「ちゃんとわかってますよ」
こっちだって初めてのセックスで二回も三回も突っ込む余裕なんてない。
「でも、なんか、すっごい、幸せって感じがする…」
だらだらと張りのない声でゆっくりと喋っている。うとうとして今にも寝てしまいそうだ。
「それは何よりです」
「なんで、お前…そんなよゆーあるの?ボクもう、すごい、ねむいよ、へとへとだよ…」
「…余裕なんてないですよ、オレだって初めてだったんですから」
「嘘だあ」
「良く回る口ですね、本当に」
アルバさんの頭を撫でてやると嬉しそうに大人しく撫でられていた。
「……ロス、あのさ、今、しあわせ?」
なんて突然聞いてくるから。
「………ええ、幸せですよ」
そう言って微笑んでやれば満足そうににへらと笑って。胸の上で静かに寝息が聞こえてきた。
アルバさんの寝息が肌にかかってくすぐったかった。


***


どれぐらい眠っていたのだろうか。視線を感じてゆっくりと目を開けると至近距離にアルバさんの顔があった。アルバさんはうわあ!と慌てて顔をのけ反らせた。そういえば前も寝顔を覗いてたな。
「お、おは、よう…」
「おはようございます。身体、大丈夫ですか?」
「う…うう…大丈夫、じゃない…なんか、身体のあらゆる個所が痛い…」
アルバさんはまだ布団から出たくないのか起き上がらずにオレの胸の中でもぞもぞと身じろいだ。
「まあ今日は土曜日ですし学校もありませんからもう少し寝ていたい所ですが、ご両親が帰ってくる前に一度シャワーを浴びて中の物を掻きださないと。入れっぱなしだと腹壊しますよ」
アルバさんはかあっと顔を赤くした。
「恥ずかしい事さらっと言うのやめろよ!」
「とかなんとか言って結構のりのりであんあん言ってましたよね」
「いやああああああ!!!もうっ!本当にしゃべるな!!!」
「初めてであの反応って…もっと余裕なくて痛がるかと思ったんですけど気持ちよさそうでしたし」
「だからお前いい加減にしろよ!!」
耳まで真っ赤になっている。
「才能あるんじゃないですか?この淫乱め」
「うっうう…」
あれ、ツッコミが返って来ない。顔を真っ赤にしたまま唸っている。その態度は自分は淫乱です。気持ち良かったですと言っているようなものだと気がついてないのか。布団の上に転がしていた携帯を手繰り寄せて時間を見るとまだ夜中の三時過ぎだった事に驚いた。ほんの二、三時間程度しか寝てなかったのか。そういえば外はまだ暗い。
「てかマジでつらい、なにこれ、身体すっごいだるい…それにまだ腹の中に…」
最後の方はごにょごにょと小さく聞き取れなかった。
「立ち上がれないほど気持ちよかったんですか?」
「た、立てるよっ!!」
裸で勢いよく立ちあがったアルバさんはふらりとよろついたがしっかりと二本足で仁王立ちした。が、太ももを伝いつう、と白いものが流れてそれに驚いた彼は咄嗟にしゃがんでしまった。怒ったり真っ赤にしたりとコロコロと表情が変わる。見ていて飽きない。
「なんなら風呂場まで抱きかかえて指で栓してあげましょうか」
くすくすと笑いながら言ってやる。
「さ、最低っ!!」
アルバさんは顔を真っ赤にして叫んだ。



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