日曜日



『悪い!ちょっと遅れる』
それは正臣からのメールだった。僕は今サンシャイン60通りにいる。
今日は日曜日でもあり街は平日より一層と賑わっていた。
大きな声で話している10代女子達、疲れきった顔をしたサラリーマン
連れ添って歩く老夫婦。僕は人々を目で追っていた。
なんとなく思う。今この瞬間この場所を通り過ぎている人々は自分には
知る事のない様々なドラマがあるのだろう。みんな物語の主人公だと昔なにかで読んだことがある。

「面白いでしょ?人間観察」
「臨也さん」
「や、帝人君」

声をかけてきたのはいつものファーコートを着た僕から見ても容姿のいい男だった。

「別に僕はただ見てただけですって、で、今日はどうしたんですか?」
「仕事でこっちに来ててね。ああ、ちょっとごめんね。もしもし?  …、久しぶり!どうしたの?」

臨也さんの携帯からは女性の声が漏れている。

「……んー今からはちょっと無理だなーごめんね……うん、…うん、」

ああ、こんな状況で正臣が来たらまた注意されるかな、
僕はぼんやりと思い出しながら携帯をいじっていた。

『なあ帝人、これ以上臨也さんに関わるな』
『え?』
『最近臨也さんとよく会ってるだろ』
『好きで会ってるんじゃないよ。僕の行く先々でたまたま会うだけで』
『…気に入られてるんだな、お前』
『そうかな』
『とにかくあの人には関わらないほうがいい』
『うん、気をつけるよ』

「じゃ、明日ね」
電話、終ったみたいだ。
「ねえねえこのまま二人で遊びに行っちゃおうよ。俺は何でも知ってるよ」
「遠慮しておきます」
「だって来ないじゃん紀田君」
なんで知っているかなんて聞くだけ愚問だ。
「俺の相手してよ」
「………」
僕は心底嫌な顔をした。
「うわあ、傷つくなあその顔」
臨也さんは少し困ったように笑う。
「好きだよ帝人君」
「知っています」
「俺が一緒にいたいんだけど」
「…………」
「沈黙は正しい選択の一つだけど顔は正直だね、少し赤い」

至近距離で僕を見つめる臨也さんの目は逃がさないよと言っているようで。
意地の悪い笑い方をした臨也さんから視線を外してしまった。
しまったと思った時にはもう遅い。

「ねえ、帝人─」

ふと、臨也さんは明後日の方向を向いた。視線を追って見ると
人混みの中目立った金髪サングラス男がこちらに向かってくるではないか。

「げっ、シズちゃんだ」
「え、ちょ、ちょっと?!」

臨也さんは僕の手を掴むと走り出した。振り返るとものすごい形相を
した静雄さんがこちらに走ってくる、いや迫ってくる!!

「ひい!」
「いーざーやあああーーっ!!!」
「な、な何やらかしたんですか!すっごく怒ってるじゃないですか!!」
「あははっさあ二人で逃避行だ!」

繋がれたままの手は少し大きくて熱くて。
正臣には悪いけれど少しだけ、ワクワクした。

  • [戻る]
  • 10.3.22

    inserted by FC2 system