戦士と落ちこぼれた少女の話。



※ゲーム・アルトネリコパロです。更に特殊な設定で捏造しまくりなので注意書きを読んでから読むことをおススメします。

・アルトネリコパロです。 更に捏造設定が入ってます。
・アルバが女体化しています。
・アルトネリコで出てくる用語をいくつか使用しています。



作中に出てくる簡単な設定。

レーヴァテイル=、音を力に変える能力を持つ稀少種族。基本的には女性しか存在しない。
身体の表面には種族の証として、「インストールポイント」と呼ばれる紋章が刻まれている。詩魔法と呼ばれる力で戦う。

インストールポイント=レーヴァテイルの身体の表面に必ず存在する、紋章のような5cm程度の大きさの痣のような物。
痣のある位置はレーヴァテイルにより様々な場所にある。

第三世代=人間とレーヴァテイルの混血の女性の中で、人間として生まれた後にレーヴァテイルの能力が発症した者。
人間の身体で詩魔法を紡ぐには生命が削られていき延命のために延命剤を定期的に摂取する必要がある。
レーヴァテイルにとって延命剤投与は性交に匹敵する意味合いがあり
身内以外の恋人等との初インストールともなれば、初体験にも匹敵する重大な出来事として認識されている。


とても特殊な設定なので閲覧にはご注意ください。
それでも大丈夫と判断した方は下の文章まで進み下さい。





1.出会い

気の遠くなるほどの遠い昔、世界に穴が開いた。世界全土を襲った大災害は地を裂き海は荒れ多くの生き物の命が奪われた。
生き残った人々は空へと繋がる巨大建造物『塔』へと逃げ込んだ。塔より下方は「死の雲海」と呼ばれる雲に覆われていて
人々は『塔』の周辺に縋るよう僅かに残された浮遊大陸を利用しながら街をつくり現在まで暮らしてきた。
空へと続く『塔』が何の目的で作られたのか今ではわからない。この塔の上層部にある街の
住人なら知っているかもしれないが下層部で暮らしているボクにはあまり関係のない事だ。

ボクが暮らしている街の名はハジマーリ。 塔の下層部の周りにできている小さな街だ。
ボクはその街を統治しているハジマーリ王国に属している第三世代レーヴァテイルだ。
ただの下層街なのに国王とか城があるとかツッコミどころ満載な街だがあえて気にしないことにした。
レーヴァテイルは能力によりランク付けされている。そのランクに合わせてパートナーと組みそれぞれの役職に合った任務にあたる。

そんなボクのランクはD。一番能力値の低いDランクだ。Dランクは落ちこぼれの烙印を押されたようなものだ。詩魔法も弱い詩しか紡げない。
そしてそんなボクをパートナーとして選ぶものはいなかった。パートナーを組む相手はこの国の王宮戦士だが好きなレーヴァテイルを選べるらしい。
差別だと言いたいがレーヴァテイルに相手を選ぶ権利はない。階級は一般兵士よりも下なのだ。
今は昔ほど酷い差別はないが未だにレーヴァテイルを詩魔法しか紡げない道具としみている奴もいる。
現在は廃止されているが昔は人身売買、奴隷制度など人として扱われない時代もあったと聞く。
そうしてボクは今日も一人城の中で雑用を片づけていた。今のボクの仕事はお茶くみと城の中の掃除だ。
広い広い城内の廊下でジャバジャバと灰色になった水の中にモップを入れながら溜息が洩れた。
「お、今日も精が出るねえ」
「アレスさん」
向こうから歩いてきたのはメイド長のアレスさんだ。彼女はメイド長という立場でありながらメイド服は着ない。
白衣を着て実にラフな格好をしている。このお城のヒメ様のお姉さん的存在だ。 それとメイド服を着る着ないは関係ないと思うけど。
ヒメ様はお優しい方でこんなボクにでも優しくしてくれる。「二人きりの時はヒメちゃんって呼んでね」と無邪気に言われた時は随分驚いたものだ。
「おはようございます」
「いっその事私の下でメイドとして働いてみないか?なかなかメイド服も様になっているじゃないか」
アレスさんはにやにやとおっさんの様に笑った。
「止めて下さいよ、ボクにはこんなひらひらした格好似合わないのに」
ボクは今自分の身につけている紺のメイド服のスカートの端を少し引っ張った。仕事とはいえこの服を着るのはかなり抵抗がある。
普段は男に間違えられるほどラフな格好をしているので恥かしいし着替えたくて堪らなかった。
「そんな君に朗報だ。よかったな、君にもパートナーを名乗り出てくれた者が現れたぞ」
「本当ですか!?」
ボクは顔が綻び喜びが声にもはっきりと出ていた。だって、本当に久しぶりだ。前は三日も持たずにパートナーを解消させられてしまったから。
「ああ、配属されたばかりの新人だがな」
同時にがっくりと肩を落とし落胆の色を隠せなかった。アレスさんも苦笑いを零している。
ああそうだよね、何も知らない新人君がとりあえずボクを選んだんだ。だって新人が選べるレーヴァテイルなんてランクの低い者だと相場が決まっている。
「まあそうがっかりするなって」
「そうですよね、前向きに考えた方がいいですよね…」
「一時間後に顔合わせするから着替えて戦士長の部屋に行ってくれ」
「はい、わかりました」
アレスさんに別れを告げるとボクは自分の部屋に戻った。一応王国に所属しているレーヴァテイルなので部屋は与えられている。
二人で一部屋の共同部屋だ。けれどボクと同室の子はパートナーを見つけて郊外へ任務に出ている事が多くあまり顔を合わせることはない。
さて、どんな格好がいいかな。失礼のないようにきちんと装備をしていこう。ボクはオレンジのシャツに袖を通し、グリーンのハーフパンツを着て上から鎧を着る。
腰には自分の身体には不釣り合いの大きめな剣を装備していた。満足に扱えない剣だがないよりはましだ。
レーヴァテイルの服装は制服もないし基本自由だから中には可愛らしい女性特有の服を選んで着るものもいるがボクには鎧姿の方がお似合いだ。





ボクは戦士長の部屋へと向かい、緊張した面持ちでノックした。
「失礼します」
部屋へ入室するとデスクに座る戦士長と、その隣には一人の男が立っていた。男はゆっくりとこちらを振り向いた。
服装は全身黒ずくめで赤いスカーフを首元に巻き、背中には身の丈程のバスターソードを装備している。
そして黒髪に白い肌。整った顔立ちに真っ赤な瞳。ボクは息を飲んだ。間違いなく女子に好かれて人目を引く容姿だ。
思わずぼーっと見惚れてしまったが慌てて思考を切り替えた。
「ああ、来たね」
穏やかな口調で戦士長は言った。見た目は長身で口元には髭を生やした優男だがその容姿に騙されてはいけない。
デスクワークだけではなく、剣の腕も相当なもので戦士長という肩書は伊達じゃない。ボクはこれからパートナーとなるであろう男の隣に立った。
「初めまして、所属ナンバー45番、アルバです」
「初めまして、戦士ロスです。宜しく」
耳を通り抜ける綺麗な低い声に全身がざわりとした。美声だ。声までかっこいいのか。だがその声の持ち主がボクを見る目は冷めていて鋭い。
「よ、宜しくお願いします…」
なんだか怖そうな人だな。
「さ、挨拶も済んだようだしアルバ、今日一日は彼に城内を案内してあげなさい。話ながらお互いに親睦を深めるのもいいだろう。明日、両名には追って任務の連絡を入れる」
「「了解しました」」
声が重なる。一瞬気を取られそうになったが戦士はお辞儀をして部屋を出て行こうとしたので
ボクも慌ててお辞儀をし、彼の後に続いた。そして戦士長の部屋のドアを閉めて戦士は一言。
「怖いって思ったでしょう、オレを」
じろりと鋭い視線がボクを見た。
「え!?そ、そんなこと!」
「見た目で人を判断しないで下さい。ぶん殴りますよ」
「なんで!?」
だがそんなツッコミも空しくボクの腹に男のパンチが入った。思いっきり。それも滅茶苦茶痛い。痛さのあまり涙が溢れて両膝を床につき両腕で腹を抱えた。
「う、うう… 」
な、な、な、何こいつ …!!いきなり殴ってきた!!女殴る男とかありえないだろう。いや男でも駄目だろてか普通顔合わせした直後に殴る奴がどこにいる。
そりゃボクはよく男に間違われるしこんな見なりだけれど生物学上女だ。
「うわあ、こんなに弱いんですか。オレのパートナーって。幻滅です」
「選んだの戦士だよね!?」
「しょうがないじゃないですか。オレが配属された時、新人が選べるレーヴァテイルなんて残り物しかいなかったんですから」
「はっきり言われると傷つくう!!ていうかいきなり殴るやつがあるか!!」
「自分が女扱いされるとでも思ったんですか?ありえませんね。胸はないし寸胴だし幼児体型もいいところですよ」
「お、お前人が気にしている事をずけずけと!」
腹正しさと恥かしさでかあと顔に血が昇った。
「まあいいです。さっさと案内して下さい」
「なんでそんな上から目線なの!?」
じろりと睨まれ冷ややかな目とぶつかり、ぐ、と言葉が喉の奥に詰まった。怖い。
「貴方こそ何馴れ馴れしくタメ口聞いてるんですか」
「あ、す、すみません…」
「まあいいですけど」
「いいのかよ!!」
勢いよくツッコンでしまったが、くすくすと笑い声が聞こえて視線をそちらに動かすと通りすがりの若いメイド二人組に笑われてしまった。
戦士は戦士で一人先に歩いていってしまう。 痛む腹を擦りながらボクは戦士の後に続いた。


***


ボクは自室に戻るとベッドに倒れこんだ。疲れた。滅茶苦茶疲れた。もう着替えるのも面倒でこのまま眠ってしまいたい。
一通り城内を案内し、ボクとしては親睦を深めるために夕飯を一緒に、と思ったが「必要ありません」の一言でさっさと帰ってしまった。
戦士ロス。とんでもない相手だ。上手くやっていけるのだろうか。考えるだけで胃が痛い。
今日一日過ごしただけだが性格が捻くれてドSだということはよくわかった。人を馬鹿にして貶してあまつさえ隙があれば
デュクシデュクシとつついてくる。大人がすることじゃないだろう。おまけに人が怪我したり苦しんだりする姿が好きだとか、なんて奴だ。

だが不運は続いた。翌日下された辞令は信じがたい内容だった。

《塔へ上る手段を探し出し、魔王ルキメデスを討伐せよ》

魔王ルキメデスとは千年前この世界を危機に陥れた魔王だ。けれど伝説の勇者クレアシオンに封印された。
その封印が解かれ今まさに世界は再び危険に晒され、近年凶悪なモンスターがうろつくようになったのも魔王の影響だそうだ。
魔王ルキメデスを退治し、世界平和の旅へと。ルキメデスの居場所は現在も不明だがこの近辺にいないとなると塔の上層部にいるのでは?と勝手に結論付られたそうだ。
下層部からなんとか上に行く手段がないか検討していたのは知っている。だが、塔の内部にはセキュリティが働いていて
中に入ることすらできない。現代では上る手段がないのも事実だ。飛空艇はあるにはあるが上に上れるまで耐えられる装甲のものはない。
せいぜい近隣の浮遊大陸同士を行き来する事ができる程度だ。壊れた飛空艇の残骸が遺跡から発掘されているので塔の上層部に暮らす街では
上層部から下層部まで行き来するために耐えられる装甲の高度な飛行艇が使われているかもしれないが上の人間が下に降りてきたなんて事例は聞いたことはない。

安直で無謀な任務。上からの決定に抗議なんてできるわけがない。決められた辞令に従いボク等はこの街を出て旅立たなければならなくなった。
どう考えても能力の低い自分をやっかいばらいされたとしか思えない辞令だった。
他にもDランクのレーヴァテイルの仲間達が数組旅立つと聞いた時は疑惑から確信に変わった。
新人戦士と落ちこぼれのレーヴァテイルの二人組。これからどうすればいいんだ。
いくつか存在する浮遊大陸はどういう原理で浮いているのかはわからない。もう何百年もこのままらしい。
とりあえず二人で街を出てここから一番近い他の街へ向かう事にした。そこは塔の付近にある街だから情報収集のために立ち寄る事になったのだ。
だが、道中モンスターがでないわけではない。ボクの顔や手足は悲惨な事になっていた。
ニセパンダ。キリンのごとく首が長く愛らしい顔をしているがマスコットキャラと誤解してはいけない。図体はでかいし強い。
「ちょっと戦士!?なんで戦わないんだよ!!ていうかレーヴァテイル最前線で戦わせる戦士がどこにいるんだよ!?お前ボクが詠唱している時は加勢しろよ!!」
「え、どっちに?」
「ボクだよボク!!ボクしかいないでしょ!!」
パートナーというものは本来お互いをサポートし助け合う存在のはずなのに、ボクのパートナーと来たら戦闘になっても剣すら抜かずのんびりと欠伸をしている。信じられない。
本来レーヴァテイルは後方で前衛で戦う者を詩魔法でサポートしたり攻撃をする。
その前衛で戦うはずの戦士は戦わずにどうしてボクが慣れない剣を使いニセパンダにボッコボコにされなくちゃいけないんだ!!
「はあ…はあ、はあ…はあ…はあ」
ニセパンダにやられてボコボコにされたボクの顔は酷い有様だった。故郷の母さんに見せたら絶対泣かれる。
じんじんして痛いし口の中は切れて血の味がするし、身体のあちこちは擦り傷だらけだしおまけにアバラが痛い。
ボクは全力疾走でニセパンダから逃げた。足だけは昔から自信がある。命が助かっただけでもましだ。
「何はあはあ言ってるんですか変態ですか」
「ええ!?見てたよね!?戦ってたよねボク一人で頑張って!?」
「うわーそういうプレイが好きなんですか。なんですか、痴女ですか」
「違うわ!お母さんが泣くわ!!」
何が悲しくて自分で自分の詩魔法で回復しなくちゃいけないんだ。詠唱しようとするが口の中が切れているせいで血が口の中に溜り、上手く詠えない。
行儀が悪いがぺっと口の中の血を外へ吐き出した。それに吐き気もする。早くなんとかしないと。
「…詠えないんですか?」
「…うん、なんか血が口の中に溜ってきて…」
「仕方がないですね」
戦士はボクの目の前に右手を翳した。疑問に思いその掌を見つめる。すると手の周りから温かな青い光が現れて
その光がボクの身体を包んだ。全身の痛みは引いていき、傷口が塞がっていく。
「………回復魔法使えるの?」
「ええ」
「なんでもっと早く使ってくれないの?」
「え、なんで使ってあげなくちゃいけないんですか。魔力が勿体無いです」
戦士に本気で嫌な顔をされた。ぺっと唾吐かれそうな勢いだ。
「傷つく!その反応地味に傷つくから!!」
「あ、ほら、もう街はすぐ目の前ですよ!」
「ホンットマイペースだなお前!」


2.初めての戸惑い


なんとか街に辿り着きその足で宿屋に向かい一部屋だけ取る事ができた。この際同室でもなんでもかまわない。
男と女だからって別室にこだわる気はない。疲れ切っていたボクはそんな事を気にする気にもならなかった。
が、部屋に入るなり絶句した。
「……………」
セミダブルベッド。二人で一つのベッドで寝ろということか。しかし戦士はそんなことはハナから気にも留めていない様子で
荷物を降ろし、背中のバスターソードを壁に立てかけた。
「オレは今から情報収集のために酒場へ行ってきます。食事は適当に一人で取って下さい」
「ま、まってボクも行くよ!」
「必要ありません。子供が来る所ではありませんし、足手纏いです」
はっきりと強い口調で言われてぐ、と言葉が出てこなかった。ボクの次の言葉を待つ事無く戦士はさっさと部屋を出て行ってしまった。
ぽつんと部屋に一人残される。なんなんだよ、あの態度。しかしこうして一人悪態をついても仕方がない。
今のボクは泥だらけで汗だらけだ。シャワーだけでも浴びてしまおう。ボクは疲れた体を動かしてシャワールームに足を踏み入れた。
白いタイルを基調としたシャワールームは狭くシャワーのみ浴びれる程のスペースだが問題ない。カランを捻り頭からシャワーを浴びた。温かいお湯が身体全体に当たり気持ちがいい。
「ふう……」
この街に辿り着くまでの道中は本当に散々だった。ボクはスライム一匹満足に倒す事ができない程弱い。
詩魔法で戦うというよりか、慣れない剣を使い戦うだけで精いっぱいだった。
強いレーヴァテイルなら自ら前線に立ち武器を振りまわして戦う者もいる。でもボクは弱い。
そんなこと、できるわけもない。しかも戦士は戦わない。人がボッコボッコにされているのに
にやにやと遠くから「がんばってくださーい」なんて言われた時は泣きたくなって腸が煮えくり返った。

でも、初めて回復してくれた。回復魔法なんて使えたのも初めて知ったけれど。
ここに辿り着くまでの道中旅について々と教えてくれたのも戦士だ。この街に来るために丸三日はかかった。
飛空艇を使えば一日でいけるが賃金が高いしそれでもたくさんの利用者がいるので無駄に待たされる。金銭面から考えて
この辺りのモンスターはそれほど強くはない、戦士に促されるまま浮遊大陸と人工的に作られた階段や橋を利用してぐるりと遠回りをして街へ行く事を選んだ。
始めからそれを計算しながら徒歩で進んでいく。一日目の足の痛さは尋常じゃなかったし二日目にはボロボロになり豆ができて潰れた。
旅慣れしていないボクを相手に彼は野営の仕方や体力の温存の仕方を教えてくれた。そして歩き方が駄目、靴が駄目だと指摘されて新しいブーツまで用意してくれた。
ボクが履いていたブーツは足に合っていないとはっきりと告げられて。できればそういう事は初日で教えて欲しかったですと言いたかったが
それは自分の愚かさゆえ招いたことだとわかっていたから文句は言えなかった。
口は悪いが優しい一面も持ち合わせている。完全に悪者、とういわけではなさそうなんだよな、と思い始めていた。

ボクは自分の体形を上から下まで見る。胸の膨らみはないわけじゃないが小ぶりだ。背だって低い方だしお世辞にもスタイルが良いとは言えない。
戦士の奴、部屋に入った時も宿屋の店主と話した時も何一つ気にもしない態度だった。ボクが女だってこと。
─…少しくらい、気にしてくれたっていいじゃないか。ボクばっかり気にして馬鹿みたいだ。

シャワーを浴びてベッドに腰を降ろし一息つく。ぐうと素直に腹の虫は鳴いた。どうしようか。一人で何を食べよう。
そういえばまだちゃんと二人で食事もしていないんだよな。ここに来る道中食べ物など乾燥した乾し肉やレーションなどだ。
…戦士は酒場に行くと言っていた。当然だがまだ戻っていない。
「よしっ」
戦士はああ言ったけれど情報収集ぐらいならボクにだって出来る筈だ。日は傾いて夜になったばかり。鎧は街の中だし付けなくてもいいだろう。
ボクは予備の新しいオレンジのシャツとグリーンのハーフパンツを着ると夜の街へと飛び出した。
この街はボクの住んでいたハジマーリよりは小さな街だ。浮遊大陸を利用し塔の周りにできている街だから
街の地区の一部が浮いていてそこに連なる階段がいくつか存在している。幻想的風景という奴もいるが実際住んでみたら事故も絶えない筈だ。
住みたくて住んでいるわけじゃない。こういう危険な場所にしか街を作れないんだ。

けれどそんな街も夜になれば昼間とは違う顔を覗かせていた。きらびやかなランプと蝋燭の光が灯されて明るい。
しばらく歩いていると賑やかな繁華街に入りたくさんの人達が出歩いていた。あちらこちらで店の呼び込みをしている。
そうした中からふとある店の看板が目に留まる。山岳亭と記された古びた看板がギイギイと風に揺れて鳴いていた。
戦士が行くと言っていた酒場は恐らくここだろう。宿屋を出る時に聞いた。この街で情報収集をするのに最も最適な酒場はどこかと。
同じ事を戦士も聞きにきたらしい。一瞬店の中に入るのを躊躇ったがボクは足を踏み入れた。想像以上に賑やかな店内。
たくさんの笑い声が聞こえてくる。そんな店の死角にはフードを深くかぶり座っている人間がいた。見るからに怪しい。関わらないようにしよう。
ボクは辺りを見回しカウンター席を見ると見慣れた後ろ姿を発見した。いた、戦士だ。けれどボクの足はすぐに動かせなかった。
戦士の隣には女がいる。化粧は少々濃いが綺麗な人だ。背が高くスタイルもよくて胸も大きい。その胸を強調するかのような
服装をして長い脚を組み短いスカートのスリットから太ももを覗かせている。自分とは天と地ほどの雲泥の差だ。
「ねえ、今夜どう?」
「生憎そのつもりはない」
「綺麗な顔して言ってくれるじゃない、そうね、一晩付き合ってくれたら話してあげてもいいけど」
「……」
ちらりと戦士は女を見た。ドクン、と一つ心臓が鳴る。ざわざわと騒ぐ胸の音。さっきは聞こえたのに、今は周りの騒音で二人の会話が聞こえない。
女が笑う。戦士の口が動いて何か話している。不安が広がり胸が締めつけられた。初めて見る知らない戦士の顔だ。…大人の、顔。
「お嬢さん、ここはまだ君には早いよ」
ボクは弾かれた様に振り返る。見知らぬ男が一人後ろに立っていた。冒険者だろうか。ウエスタンハッドにブラウンの皮ジャンを着て胸の前のシャツははだけている。
見るからに軽そうな男だ。よくボクが女だと気がついたな。大抵は男に間違われるのに。でも、少し嬉しい。単純にそう思ってしまった。
「あ、あの…」
「あれ、君の彼氏だろ?心配して様子見に来ちゃったのかい?」
男はくいっと顎を戦士のいる席の方へ向けた。
「かかかか彼氏!?そ、そ、そそんなんじゃ!!」
ボクは思いっきり首と両手を左右に振って全力で否定した。
「なら好きな人か。ずっと見ていただろう?」
かあ、と頬が熱くなる。好きな人?ボクが、ロスを?まだ出会って間もないあいつを?ありえない!
「違います!あ、あいつはただのパートナーで…」
「ああ、なんだ。君、もしかしてレーヴァテイルなのか?」
「は、はい…」
「なら早くここから立ち去った方がいい。君みたいな子はすぐに狙われる。この辺はあまり治安も良くない。よく一人でここまで無事に来れたものだ」
「…どういう意味ですか?」
男は一瞬視線を動かして何かを見た後にワザとらしくボクの肩を抱いて引き寄せた。
男の手がボクの右膝から太ももに触れる。撫でられてざわりと悪寒が走った。
「こういうこと、されてしまうよ?」
その瞬間ヒュン、と何かが男目掛けて飛んできて男は首を右に動かしそれを避けた。何かはすぐ近くの木の柱に刺さった。フォークだ。フォークが波打っている。
「え…?」
肩を抱いてきた男はボクから離れるとやれやれと小さく息を吐いた。でもその顔には余裕がある。危ないなあといいつつ全然驚いているようには見えなかった。
フォークが飛んできた場所を目で追う。戦士がこちらに向かって歩いてくる所だった。
「せ、戦士?」
戦士はボクをちらりとも見ない。けれど彼を包むオーラは迫力があった。怖い。
「その人に触るな」
聞いた事もない、低い声にびくりと身体が反応してしまった。
「せん─」

「それはオレのものだ」

ドクンと心臓が大きく飛び跳ねた。戦士から目が離せない。
「行きますよ」
戦士はボクの手を乱暴に掴むと強引に店を出た。ぐいぐいと引っ張られていく。強く握られてかなり痛い。後ろを振り返ると男はひらひらと右手を振っていた。
ガヤガヤと騒がしい夜の街を手を繋いで歩く。というよりかは引っ張られてボクは小走りになっていた。
そんなボク達を周囲はちらちらと見ている。男にも見える容姿に男同士で手を繋いでいるのかと思われたのかもしれない。周りの視線が痛かった。

”それはオレのものだ”

ドキドキと高鳴る心臓の音がなかなか収まらない。どういう意味であんなこと、言ったんだ。
聞きたくても聞けない。ボクはただ黙って戦士に手を引かれるまま彼の後ろ姿を見ているだけだった。
繋がれている手。戦士の手はボクより大きくてすっぽりと包みこんでいる。温かい。
あんな事を言われて意識するなと言う方が無理だ。
「な、なあ!ちょっと待ってよ戦士!」
声を掛けても無視。彼はズンズンと早歩きで歩き続けた。


***


「この馬鹿!何一人でのこのこやって来たんだ!!」
宿屋に戻り部屋に入った途端第一声は頭ごなしに怒鳴られた。
「なっ!そ、そんな風に怒鳴らなくてもいいだろ!」
「来るなとはっきりと言いましたよね?」
「そ、それは…でも、ボクだって情報収集くらいできると思って…」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていましたがここまで馬鹿とは…」
戦士は眉間に皺を寄せて盛大に溜め息を吐かれた。
「そこまで酷く言う事無いだろ!」
「言わなければわからないなら言ってやりますよ。あそこは治安の良い地域ではありません。人攫いが出ると聞きます。特に狙われるのはレーヴァテイルです」
「…!」
「貴女は弱い。攫われたら抵抗も出来ずに酷い目にあってもオレは助けてやれません。もっと考えて行動して下さい。見誤った判断をすれば同行しているオレに迷惑がかかります」
「………」
何も言い返せない。悔しさでボクは俯いて両膝のパンツを握った。
「聞いているんですか?」
戦士がボクに歩み寄ったと同時に香水の匂いが鼻を通り、ズキンと胸が痛んだ。あの女の匂い。なんだこれ。なんで涙が勝手に出てくるんだ。
「黙っていたらわからないでしょう」
右腕を掴まれて引かれると薔薇の匂いが益々強く匂った。自分でも分るほど不快に顔が歪んだ。
「…寄るな、臭い」
戦士の眉間に皺が寄る。腕を振りほどこうとしてもできず、相手の方が力は強い。益々苛立ちが募っていく。
「香水臭いんだよ!」
これに驚いたのは戦士の方で一瞬驚いた顔をしたと思ったがにやりと口元が緩んだのだ。
そして腕を強く引かれ彼の胸の中に顔を埋める形になってしまった。
「な、なにする…離せよっ!」
「嫌です」
「お、お前、だって、情報収集とかいって、本当はよろしくやって、たんだろ!!」
感情の波が収まらない。何を泣きながら言っちゃっているんだボクは。
「ああ、見ていたんですか」
「…!!」
嫌だ、なんで、こんなにも苦しいんだ。
「良い表情ですね、オレは人の苦しむ顔を見るのが好きなんです。特に、貴女の苦痛に歪む顔が」
「さいってい…!!」
ボロリと涙が頬を伝った。それを見て益々満足そうに笑みを浮かべられて馬鹿みたいに泣きたくなった。
苛々する。腹が立つ。けど、涙は勝手に溢れて止まらない。
「嫌なんですね、この匂いが」
「ああそうだよ嫌だよ!自分でもよくわかんないけどなんか嫌なんだよ!!」
戦士は何も言わなかった。だからボクはただ女の匂いのする服の匂いを嗅ぎながら泣くことしかできなかった。





あれから戦士は今シャワーを浴びている。
あっさりと「貴女をいじるのは飽きましたのでシャワー浴びてきます」の一言で解放されてしまった。

ボクはごろりと広いベッドに横になった。
……なんで泣いてしまったんだろう。ただ、凄く嫌な感じだ。まだもやもやする。
…胸の痛みの理由に心当たりがないわけじゃないがその感情を認めてしまうのは癪に障る。嫌だ、認めたくない。
ありえないだろう。まだ出会ってたったの三日前後だ。おまけにドSで最低で…さっきだってボクを馬鹿にして…
また泣きそうになって涙腺に溜ったごしごしと手の甲で涙を拭った。
上手くはぐらかされたけどあの女の人は誰なんだろう。くっそ、なんでこんなに気になるんだ。

ボクは上半身を起こしベッドの上に座ったまま気持ちを落ち着かせるために、一度深呼吸をして歌を口ずさんだ。
こんな時は声を出してしまうとすっきりする。辛いことや悲しい事があった時はいつも歌を歌っていた。
ふと口から零れた歌は子守歌だった。ゆったりとした優しいメロディの旋律。
子供の頃母さんが口づさんでくれた子守歌が過り、懐かしく、そのまま歌う。歌い終わると少しすっきりした気がした。
瞳を閉じてゆっくりと開けると目の前にシャワー上がりの戦士がいた。いつものバリサンがぺたりと落ちていてまた違った雰囲気だ。
「うわあ!?い、いいたなら声かけろよ…」
「悪くなかったですよ」
「へ?」
戦士は何も言わずボクとは反対側のベッドに腰を降ろした。褒めた。ロスが、悪くなかったと言った。
「歌には自信があるんだ」
ボクは両足をベッドの上に乗せるとへへと得意気に笑った。
「歌が下手くそなレーヴァテイルって聞いたことありませんけど」
「う、それは、そうだけどさ…」
「綺麗な声でした」
ボクは驚いて戦士を見たが彼はボクに背を向けたままだ。さっきの行動とは正反対だ。でも褒めてくれた。
綺麗だって言ってくれた。初めてだ。嬉しい。 心の奥がじわりと温かくなった。喜んでいるボクを余所に
ようやくこちらを向いた戦士の視線が上から下まで動いて。ボクはまだ寝まきではなくいつもの服装のままだったけれど。鎧は着ていない。
「本当にツルペタですね」
プフーと思いっきり笑われた。
「ほっとけ!!もういい、寝る!!」
「えー床で寝て下さいよ。オレベッド使いますから」
「ボクだってベッドで寝たいよ!これセミダブルなんだから二人で寝たっていいだろ別に!」
どうせ戦士はボクを女だと思っていないんだ。気にするだけ無駄だ。
「……………」
と思ったらなんかすごい睨まれてるんですけどなんで、怖い!
「殴っていいですよね?」
「やめて!!」
だがしかし手が出るより聞いてくるだけマシだ。
「ってそうじゃねえだろおい!!」
「何一人でツッコミしてるんですか」
「う、うう…」
「ああそうだ、貴女って第三世代なんですよね」
戦士は何かを思い出したように弾んだ声だ。
「…?そ、そうだけど…」
「延命剤の投与、しているんですよね」
「う、うん…三カ月に一回は…はっ!!」
延命剤といっても普通の薬ではない。実物はかなり大きなクリスタルの形をしていて、それをインストールポイントにインストールすることで投与させる。
だけどボクはこれがすごく苦手で大嫌いだ。なにせそのクリスタルはかなり大きい。インストールする度に激痛が走るのだ。でも仕方がない。これも生きるためだ。
延命剤を投与しなければボクは二十歳前後で死を迎える事になる。
「あれって、すっごく痛いらしいので今度オレが入れてあげましょうか」
にっこりとワザとらしく笑う戦士にボクはじわじわと顔が赤くなっていく。
それはもう頭からつま先に掛けて全身真っ赤になる勢いだった。だって、そんな事、男の人に言われた経験など一度もなかったのだから。
「な…な…な…!!」
「何顔真っ赤にしてるんですか?」
けれどそんなボクの反応を意外だと思ったのか戦士は平然と問いかけてきた。
「い、い、い、意味わかって言ってんの!??」
「意味って何がです?」
ちょっと待って。え、この反応。まさか知らないのか…?
「し、知らないの…?」
「だから何がです」
戦士の苛立った物言いをするということは本当に知らないんだ。
「本当に殴られたいんですね」
「わーわー!!話す!ちゃんと話すからちょっと拳構えるなよ待てよ!──…ぼ、ボク達レーヴァテイルにとって身内以外の他人に延命剤をと、と、投与されるのは…」
「されるのは?」
「せ、せ、」
「せ?」
なんで、ボクがこんな説明をしなくちゃいけないんだ。恥かしくて顔から火が出そうだ…!
「性行為と同じ意味なんだよバカヤロウーー!!!!」
ボクは思いっきり戦士目掛けてバフっと枕を投げつけた。枕が顔に直撃してずるりと落ちる。
勢いで投げてしまったがもう遅い。だが驚いていたのは戦士も同じようで、そのまま固まっていた。
「あー………」
そして視線を明後日の方向へ逸らしがしがしと頭を掻いて、戦士の頬がほんのりと赤く染まっていた。微妙な沈黙が流れること数秒。
「─…すみませんでした、オレが悪かったです」
「お、おやすみ!!」
ボクは強引に会話を終了させてベッドサイドテーブルの上にあったランプの火をふ、っと消すとベッドに横になった。
はあ、と後ろで溜め息が聞こえた。殴られるんじゃないかとドキドキしたがベッドのスプリングがぎしりとなって緊張が走る。
心臓の音が耳にまで届いてうるさいくらいだ。だって、あんな会話…なんてこと言わすんだこの男は!そして戦士が隣に横たわったんだと気配でわかった。
真っ暗の部屋の中は先程と打って変わり静寂に包まれた。
何も起らない。ちらりと後ろを振り返れば彼の背中がすぐ近くにあって、慌てて前を向いた。


戦士が、ロスが隣にいる。真っ暗な部屋の中男と女が一つのベッドで。
うう、これ寝れるのかな。寝れる自信ない。このまま朝まで寝付けなかったらどうしよう。
そう思っていたのだけれど、自分が思っていたよりも疲れ切っていた身体は瞳を閉じてしばらくして深い眠りへと誘った。








翌朝、目が覚めると戦士はもう起きていた。テーブルに座りしっかりと朝食を食べている。
右手には焼きそばパンを持っていてもごもごと口を動かしながら新聞を広げて読んでいた。
ぐうと盛大に腹の虫が鳴り、戦士に思いっきり吹き出されてボクは顔を真っ赤にした。
そうだ、昨夜は結局何も食べずに寝てしまったんだ。
「お、おはよう…」
「おはようございます。ようやく起きたんですね。後一分寝ていたら目覚めの良いパンチをお見舞いする所でした」
「もっと普通に起こして!!起きれてよかったボク!!」
急いでベッドから出てボクは洗面所へ駆け込むとバシャバシャと顔を洗った。冷たい水が頬を引き締めて目が一気に覚めた。
いや、さっきの脅し文句で十分目は覚めていたか。……一晩同じ部屋で寝ちゃった。改めて意識するとなんだかドキドキした。
でも考えるだけ無駄だろう。そんな風に思ったのはきっとボクだけだ。ああ、むかつくことになんで落ち込んでいるんだボクは。部屋に戻りボクは戦士に声を掛けた。
「ねえ、結局昨夜はなにか情報を掴めたの?」
「いえ、有力なものはないですね。ただ一つ気になったのが街外れに塔について詳しい人が住んでいるそうなので今日はそちらに向かおうかと」
「へえ」
「問題はそこに辿り着くまでが面倒なんですよ」
戦士は新聞から目を離すとじろりとボクを見た。
「そこへ向かう途中の橋の上に凶悪なモンスターが占領しているそうで。討伐クエストが出ていたんですがまだ誰も成し遂げていないんですよ」
「じゃあそいつを倒さないと先に進めないってこと?」
「ええ、でも足手纏いな貴女と新人のオレと二人で戦って敵うと思います?」
「うっ…ていうかお前全然戦わないだろ!?」
「そうでしたっけ」
「そうだよ!!」
正直戦士が戦った姿はまだ一度も見た事がない。自分では「オレ強いですから」と言ってはいるが正直微妙だ。
でも身の丈ほどのバスターソードを軽々と持ち上げるし剣の手入れも時々していた。そう思うと本当に強いかもしれない。
だけどそれをツッコンだら間違いなく返り討ちに合いそうだから黙っているけど。
だとしたら、ボクが強くなるしかない。短期間で強くなる方法はある。詩魔法を新たに紡げばいいんだ。
それから戦士にはなんとか協力してもらって二人で戦えばモンスターも倒せるかもしれない。ボクはある決意をした。
「……戦士、ボクにダイブして」
「は?」
「…戦士なら、いいよ」
ダイブとはダイブ屋という所でダイブマシンでボクの心の中にパートナーが入り、新たな詩を紡ぎ出す作業だ。
ダイブはボクの心の内面を全て曝け出す行為そのもの。心の階層が深ければ深い程ボク自身知らない心の奥底を見られてしまう。
けれど上手くいけば新しい詩魔法を紡ぐ事ができるのだ。そうすれば今より少しはまともに戦えるようになるだろう。
「…………」
しかし戦士は何か考え事をしているようで、黙ってしまった。急に黙られるとこっちも不安になる。
「戦士?」
「いいんですか?本当に。オレ達はまだ出会って間もないんですよ?本来ダイブは深い信頼関係を築いた相手でなければ許されない行為の筈です」
「うん、でもこのまま足手纏いのままでいるのは嫌なんだ」
「本気ですか?」
こくりとボクは頷いた。真直ぐに戦士の目を見る。決意は固い。戦士は観念したように溜め息を吐き出した。
「……わかりました、ダイブ屋へ行きましょう」
「うん、ありがとう」
良い提案だと思ったのに。戦士も戦士でもっと賛成してくれると思ったのに、どうしてだろうか。
戦士は困惑した表情のままダイブ屋までの道中は終始無言で不機嫌だった。






3.ダイブ

正直戸惑いがないわけじゃない。本当にわかっているのかこの人は。自分の心の内を他人に見せるという行為の重大さを。
オレ一人でモンスターと戦えば倒せないわけじゃない。だがそれではこの人の成長にはならない。
いずれはダイブをしなければならないと思っていたが、こうも早く言ってくるとは予想外だった。
「いらっしゃい。ダイブ屋へようこそ」
ダイブ屋。詩魔法を紡ぐ作業を手伝う場所だ。機械の事はよくわからないが中はゴチャゴチャとしていて人間が入れるポットが二つあり
それらがたくさんの太いケーブルに繋がれている。ダイブ屋、というからには有料で商売に成り立っているのも事実だ。
「戦士はダイブの経験はあるの?」
「いえ、初めてです」
「一応説明しておく?」
「ええ、お願いします」
「えっとね、戦士も知っている通りダイブはボクの心の中で詩魔法を作り出せる作業なんだ。恥かしいけど、ボクの経験した記憶や妄想の中から詩を作っていくんだ。
それと同時にボクの心の中を見せる行為でもある。だから信頼するパートナーと行うのが一番望ましいんだけど…
そしてボク達レーヴァテイルは頭の中にある空想や記憶を詩にして具現化させる力を持っているの。でもそれを一人で具現化するのは
とっても大変な事で、戦士にはボクの中でその手伝いをして欲しいんだ」
「わかりました」
「お二人さん、早く中に入りな」
ダイブ屋の主人が促してくる。
「よ、宜しくお願いします」
緊張した面持ちでアルバさんはオレにぺこりと頭を下げた。





目を開けると見知らぬ世界が広がっていた。目の前には何故かストーンヘンジがある。
ここが、アルバさんの心の中か。と、思っていたら変なのが目の前に浮いていた。クマのようなマッチのような、なんだこの生き物。
「お前誰だ?」
変な生き物から話しかけてきた。お前とか何様だ。
「お前こそなんだ」
「ボクはクマっち!アルバの心の護さ!」
「心の護?」
「そう!この世界の守護者だって思ってくれればいいよ」
「そうか」
あの棒状のものを掴んでこすれば火をつけられるんじゃないか?オレはクマっちとやらの棒を掴み床に擦りつけた。
おお、火がついてちゃんと燃えた。めらめらと。
「おー燃えた燃えた」
「ぎゃあああああ!!!!!」
クマっちとやらはもの凄い勢いでブンブンと身体を動かし一回点をして自らの火を消した。なんだ、そんなに燃えてないじゃないか。焦げてはいるが原型は残っている。
「いきなりなんてことしてくれたんだ!!危うく燃えカスになるところだっただろ!!なんだってアルバはこんな男を入れることを許可したんだよ!」
ビービー涙目になって叫んでくる当たりアルバさんになんだか似ている。
「お、お前本当に何なの!?なんでここにいるの!?ていうか名前教えろよ!?」
ツッコミの嵐だ。
「ロスだ。詩魔法を紡ぎに来たんだ。本人の了承も得てる」
途端クマっちは驚いた顔つきになってオレを凝視した。
「…ロス…?お前がロス!?」
なんだこのクマみたいなやつオレを知っているのか?ああ、そりゃそうかここはアルバさんの心の中だ。知らない方がおかしい。
「ああそっか、だからアルバは許可したのか…ううん、でもまだ早いような…」
「何をぶつぶつ一人で言ってやがる」
がし、っと棒を掴もうとしたが上手く避けられて空に逃げられてしまった。
「チッ」
「舌打ちをするなあ!今また燃やそうとしただろ!?…うう、まあいいや。アルバが選んだ事だし……アルバならこの世界のどこかにいるよ」
「なら勝手に探しまわってもいいんだよな?」
「うん。でもアルバとの絆の値によっては入れない場所もあるからね。絆が深ければ深い程行ける場所も広がるよ」
「わかった」
オレはクマっちに別れを告げて歩き出した。心の中というものはおかしな空間だ。色々な場所が点々として存在している。
一つはオレ達がいた城。
一つはただの一軒家。
一つはだたっぴろい平原。花や草が一面に広がっている。
一つは深い森。延々と森が続いている。
…そして最後は洞窟の中にある牢屋。ここは遠くから眺めるだけで立入ることすらできなかった。
とりあえず平原に行ってみると心の中とはいえ辺り一面は草原に囲まれていて花が咲き乱れ空は気持ちの良い程快晴だ。だが匂いは、しないのか。
「もー!何してるんだよ戦士!」
とたとたと後ろから見慣れた姿のアルバさんが姿を現した。鎧を纏う、いつものアルバさんだ。
「何って、何がです?」
「ボク達は魔王ルキメデスを倒すために旅をしている最中でしょ?いきなりいなくならないでよ」
「は?」
「勇者のパーティーに戦士は必要だろ!ほら、早く行こうよ、冒険の旅へ!」
「勇者って誰が?」
「ボクだよボク!!ボクは伝説の勇者クレアシオンの子孫、勇者アルバ!魔王ルキメデスを倒すため二人で旅に出たんじゃないか。しっかりしてよもう」
ああなんだこれ。そういう設定なのか。てかこれアルバさんの妄想?心の中とはいえうわあ…これは結構色々ときつい。
「モンスターだ!!」
そしてすげー不自然な程唐突にそれは現れた。でかいニセパンダだ。
「現れたな!魔王の手先め!」
アルバさんは短く詠唱を始めると今まで見た事もない赤い火の玉を作り上げ攻撃魔法であっさりとモンスターを倒してしまったのだ。
何度か見た事はあるが彼女の紡ぐ攻撃魔法はしょぼい光の玉だったはず。
「………」
「戦士?」
「ああいえ、貴女ってこんなに強かったでしたっけ」
「何言ってるんだよもう!当たり前だろ!だって勇者はみんなの希望だから!ボクが頑張らなくちゃ!」
アルバさんはえへへっと得意気に笑った。
「心の中だからなんでもあり、か…」
「どうしたの?さっきっから戦士変だよ?」
「いいえ、なんでもありません。で、これから二人で何処に行くんです?」
「色々な街を巡ってクエストを受けて、困っている人をたくさん助けたいんだ!」
にこりとアルバさんは笑って。
「ボクはね、クレアシオンに憧れて勇者になったんだんだから」
ぴたり、とオレの足が止まる。今、何て言った?風に揺られアルバさんの髪が靡いていた。
「クレアシオンのおとぎ話知ってる?ボクはそのお話が大好きなんだ!だからいつか彼みたいな立派な勇者になりたいんだ!」
「……………」
やめろ。
「クレアシオンはすごいんだよ。魔王に苦しめられた人々を救ったんだ。千年も語り継がれる伝説の英雄なんだよ!」
弾む声にキラキラした眼差し。それを見るだけで吐き気がした。
何も知らない癖に。何も分らない癖に。本当のクレアシオンの真実を知りもしない癖に。
「…やめろ」
「?」
「クレアシオンは英雄でもなんでもない」
「何でそんな事言うの?変な戦士!」
アルバさんは不満げだ。
「おとぎ話と真実は違います。歴史なんてものは都合よく改ざんされて真実を捻じ曲げ勝手に英雄化して肥大しただけです」
事実そうだ。
「いい加減にしないと本気で怒るよ!?」
「…そんな事はどうでもいいんです。オレがここに来た目的は詩魔法です。さっさと紡いで下さい」
「ちゃんとわかってるよ、さっき使っただろ?あれが新しい魔法だよ。多分現実のボクも使える様になっている筈だよ」

チャラッチャッチャー!!アルバは赤魔法を紡ぎ出した!

「うわ、なんか変な音楽とテロップ出た!!」
「貴女の心の中でしょう…ここは」
「ああうん、まあそうなんだけどさ、正直こうも簡単に魔法紡げるとは思ってなかったから」
「落ちこぼれですしね」
オレはワザと鼻で笑ってやった。
「はっきり言うな!…でも、やっぱり戦士にダイブしてもらってよかったかも」
「は?」
「ま、まあダイブを許したのは戦士が初めてなんだけどさ…」
えへへ、と顔を赤らめてもじもじしている。それは普段は見ることのない少女の顔だ。
「…それではオレは別の場所に行きますので」
「え…?」
零れた声は寂しさが含まれていた。
「もう行っちゃうの?一緒にいてくれないの?」
「ここに残っていても仕方がないと思いますが?貴女は今新しい魔法を紡ぎましたし」
「うん…」
アルバさんの眉は下がって元気がない。立ち去って欲しくないという態度が丸わかりで。
まるでオレがいなくなるのが嫌みたいじゃないか。くっそ、可愛いなんて言ってやるか、絶対に。
ふう、と珍しくアルバさんは溜息を吐き出した。
「…そうだよね、今のボクじゃ駄目だ。戦士を引止められない。例えここがボクの心の中でも。
現実世界のボクは認めたくなくて誤魔化したいみたいし。でも無理だよね、もう自覚しちゃってるし」
「何の話ですか?」
「ううん、なんでもない。まだレベル1の階層のボクじゃ話せないんだ。色々と」
「それは、まだ貴女がオレに気を許していないということですよね」
「うん、だって戦士とボクはまだ出会って間もないし」
当然と言えば当然か。
「…それでは、また」
「うん、またな!」
オレはアルバさんに別れを告げて平原を出た。さて、次は何処に行こうか。フラフラと歩いていたら周りはいつの間にか木々に囲まれていた。どうやら森の中に入ったようだ。
深い森。だがそれは目の前に突然現れた。人だ。人が現れたのだ。青い光に包まれて瞬間移動でもしてきたように。
「あ…」
その人物は小さく声を上げた。アルバさんだ。けれど今のアルバさんとはまるで雰囲気も違う。真っ黒のマントを羽織り左目だけが赤い。
背丈も今のアルバさんより高い。オレより少し低い程だ。そして何より一番驚いたのが胸のでかさ。大きな膨らみが二つ。ツルペタがどうしてそうなった。詐欺だろそれ。
「ロス…」
優しい声色に、とても穏やかに微笑まれて、名を呼ばれ不覚にもドキリと心臓が高鳴った。本名でもないというのに。
「驚かせてごめんね。ボクはここよりもずっと奥の階層のアルバだよ。…本当はいけないんだけど、ロスに会いたくて来ちゃった」
アルバさんは絞まりのない顔でふにゃりと笑う。その笑顔はオレの知っているアルバさんだ。けれどどこか暗い影を落とし大人びた雰囲気にも見える。
「アルバ、さん…?」
「そうだよ、この姿だとびっくりしちゃうよね、でも、ボクだよ」
「あー!!どうしてここにいるんだよ魔王アルバ!!」
「レッドフォックス…」
魔王アルバ、すごいネーミングだな。つかややこしい、またアルバさんが増えた!今度は何だ、耳だ。
頭の上から獣耳が生えている。ユラユラと腰には赤いスカーフと尻尾が揺れている。狐の尻尾だ。
「こんな所にくるなんていけないんだ!」
「君には関係ないよ」
レッドフォックスと呼ばれたアルバさんはオレに気がつくと大きな両目をこれでもかと見開いてとても驚いた顔をした。
「ロス?ロスだ、ロスがいる!!」
尻尾をぴーんと高く上げて目をキラキラと輝かせて近寄ってきた。両腕が伸びて抱きついてくる寸での所でがし、っと魔王アルバはレッドフォックスの首根っこを掴んだ。
「駄目だよ」
「何するんだよ!離せ!自分ばっかりロスと話して!」
じたばたと暴れている。
「ごめんね。ロス、またね」
シュンと青い光に包まれて魔王アルバと呼ばれたアルバさんはレッドフォックスと名乗ったアルバ共に消えてしまった。
「なんだったんだ、今の…」
嵐のように現れて去ってしまった。この世界には色々なアルバさんが存在しているということか…?そして次の瞬間遠くの方で眩い光が昇った。大きな光の柱が。
「パラダイムシフトだ!」
クマっちが突然現れた。
「パラダイムシフト?」
「そうだよ!アルバがパラダイムシフトを起こすなんて…こんなの、初めてだ!急いで!あの光の中に飛び込むとアルバの心が一段階成長したことになるんだ」
オレはクマっちの後を追うように光の場所へ向かった。そこは、初めてこの世界に入った一番最初の場所だ。
そこの中心たるストーンヘンジが光っている。そしてそこにはアルバさんがいた。いつものアルバさんだ。背も小さくて鎧姿でツルペタの。
「クマっち!戦士!ストーンヘンジが光ってるんだ!」
「アルバ、この中に飛び込んで。そうしたらアルバは一歩成長したアルバになれるんだ」
「成長した、ボクに…?」
「そうだよ、さあアルバ」
クマっちは光の中に飛び込めと促しているがアルバさんは光の中を見つめている。その表情は不安げだ。そしてオレの方に向き直った。
「ねえ、戦士。聞いてもいい?どうしてボクを選んでくれたの?他にもレーヴァテイルは居た筈なのに…さ」
「………」
「大丈夫だよ。現実世界のボクはここでの出来事は覚えていないから、話してくれても。…知りたいんだ」
「はっそんなの始めに言ったじゃないですか。もう忘れてしまったんですか?これだから脳みそが入っていない人は」
「ちゃんと入ってるよ!失礼だな!てかお前本当に相変わらずだな!」
いつものツッコミをしつつもその顔は笑っている。そして、覚悟を決めた顔をした。
「ありがとう、ロス」
オレの名前を呼んで。
「どういたしまして」
「…また、会いに来てくれる?」
「来て欲しいんですか?」
「うん、本当はね、もっとお前の事色々と知りたいんだ。まだ出会ったばかりだけどどうしてかな、すごく気になる。
気がつくといつもロスの事ばっかり考えて…だから、もっと知りたい。一緒に旅を続けたいなって」
「アルバさん…」
「またな!」
アルバさんは元気良く微笑むと光の中に飛び込んだ。辺りは眩い光に包まれて、突如視界は暗転した。





ダイブマシンを出てしばらく経つがまだ頭がはっきりしない。奇妙な感覚だった。
先にポットから出ていたアルバさんは不安げにオレを見つめて駆け寄ってきた。
「ど、どう、だった…?」
「─…どう、とは?覚えていないんですか?」
「う、うん…でも、なんか、ちょっとすっきりした感じ。新しい詩魔法も覚えたみたいだし」
本当にあの世界の出来事は覚えていないのか。
「勇者さん」
「え?」
「オレはこれから貴女を勇者さんと呼ぶことにします」
「な、なんでー!?」
アルバさんは心底不思議がっている。
「自分で言ってたんですよ。ボクは魔王ルキメデスを倒す伝説の勇者クレアシオンの子孫、勇者アルバだって」
「うわああああ!!なにそれなんの設定!?た、確かに子供の頃からクレアシオンはボクの憧れで…ってそうじゃなくてすっごく恥かしい!!!」
「いやー人の心の中を覗くのって結構楽しいものですね」
オレはにやりと笑う。
「やめて!!このドS!!」
「勇者さーん、オレ嬉しかったです〜オレともっと一緒に旅がしたいって言ってくれて〜」
「はああ!?何それ!??そんな事…ボ、ボク…!!」
わなわなと震えて顔が真っ赤だ。
「これからもよろしくお願いします、勇者さん」
オレがにっこりと微笑んでやるとサーっと血の気を引かせてすぐにまた顔を真っ赤にして。
「恥かしいからその呼び名はやめろ!」
と叫んだ。嫌だね、こんな楽しい事誰が止めてやるものか。



***



─城内 姫の応接室─


白を基調とした室内。窓から差し込む光で室内は明るい。壁には美しいドレス姿のヒメの肖像画が飾られている。
ヒメは窓の外から通り過ぎ、空高く舞う数羽の白い鳥達を目で追っていた。
「失礼します」
数回ノックの音と共に部屋に控えていたメイドが扉のドアを開けると戦士長が部屋に入ってきた。
ヒメはドレス姿ではなく白いシャツに灰色のパンツを着ていた。ラフな服装だ。彼女はドレスを着ない。
着飾るのは外交や他国の姫君とお茶会に招かれた時だけだ。今ではドレス姿よりもラフな服装が板についている。
昔は教育係に酷く注意をされ城の中の貴族達は彼女を悪く叩いたがヒメは凛とした態度でその姿勢を崩さなかった。
下のもの対する思いやりのある態度にヒメの好感度は高い。メイド長のアレスとは姉のような存在でもあり友人でもある。
人懐っこくて明るい性格のアルバの事も表だって特別扱いはしないが友人の一人だと彼女は思っていた。
「無事に旅立ったようですね」
「はい…」
「戦士長、まだ悔やんでいるのですか?」
ヒメは微笑みながら優しく語りかける。
「悔やみたくもなりますよ。旅立たせるなんて勿体無い」
「仕方がありません。この険しい旅は彼以外適任者がいませんでしたし」
「当然です。ロスは戦士選抜試験で優秀な成績を収め一位になる程有能な戦士なんですよ?
できれば私の下で育てたかったですよ。…といっても、かなり戦い慣れをしているようで本来の実力も隠しているようでしたが」
「流石ですね、そこまで見抜いていたんですか」
「まあそれは良いとして、何より一番驚いたのはレーヴァテイルです。彼の場合実力が認められAランクのレーヴァテイルとパートナーを組むことだってできたんです。
それが何故あのような能力の低い子供のレーヴァテイルなど…」
戦士長は納得のいかない様子だがヒメは心の中で思っていた。そんな簡単な理由。一つしかないじゃないかと。
「今は無事に塔の上部へ行ける手段が見つかるよう、祈りましょう」
「そうですね」
それから一言二言戦士長と仕事の話をすると、彼は部屋を退出した。ヒメは冷えた紅茶を淹れ直しにデスクの近くへ来たメイドへ声をかけた。
「ねえ、貴方にはわかる?どうして優秀な戦士がわざわざランクの低い子を選んだのか」
「そんな!ヒメ様、私がご意見できるようなお立場では…!」
「もう、今は二人きりなんだから大丈夫よ」
ヒメはメイドに友達のように語りかける。彼女はヒメよりも年上で二十歳は過ぎているがアレスの部下でもありヒメの下で働くようになりもう十年近くなる。
「…そうですね、一つ心当たりがないこともないです」
ふふ、とメイドは口元を緩めた。
「あら、きっとそれ私と同意見だわ」
ヒメも青い瞳を輝かせてにこやかに微笑んだ。
確かにパワーバランスを考えれば優秀なパートナーと組むことも大切だ。
けれどもし自分が戦士と同じ立場だったら迷うことなく同じ選択を選ぶだろう。
なにせヒメ自身、ある一人の男に恋心を抱いているのだから。



「理由なんて、惚れた以外何があるのかしら?」



END


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  • 13.7.21

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